『透く水底にあなたを葬る』感想

梶つかささんの薄い本。
通称スク水本。

■ タイトル:透く水底にあなたを葬る
■ ジャンル:海洋性百合ファンタジー

大半が海に沈んでしまった港町に残った少女たちの、噛み合わない面が軋む話。
ほのぼのギスギスしています。

唯さんのみずみずしい(けどどこか生々しい)透明感のある表紙に、海に沈みかけた真っ白な町。
仲良しの少女ふたりが、町を出る・出ないで揉めたあとに、結局同じ寝台で眠る――。
最初に飛び込んでくる情報だけで内容を判断すると、なんだかんだあっても最終的にはほっこりとするいい話で終わりそうだとおもうじゃないですか。
でも実際は抜き身のナイフなんですよ…。

ちょっと押し付けがましいけど面倒見のよさそうなジーナと、元気な主人公タイプのエカ。
基本的にはほほえましい会話を繰り広げているのに、ふとした瞬間に冷ややかで鋭い感情がちらつく。
そんな冷ややかさが次第に姿を現していって、このままだと関係が破綻する――と思ったところで感情が弾けて、ふたりの絆も切れずに収束する。
んですが、少なくともジーナは決定的に変わってしまっているところがあるんですよね…。
「ずるくなる」というにはあまりにも冷たい重たさがある変容。
たまらないなーと感じました。

視線の交わらない関係性の物語だと思うんですが、同時に、少女がおとなになる物語のような印象もあります。
ジーナは最初からずるいといえばずるいんだけど、そんなに器用じゃない。
でも、最終的には目的を達成するための器用さを手に入れる。
たしかにいろいろと学んで成長しているんだけれど、道徳の教科書みたいな成長じゃないところがすごくいい。
他にも、作中にちりばめられた様々な要素が、おとなになることの暗喩なのでは…という深読みをしました。

ちなみに、この本の序盤を読んだときの印象は「母性マウンティング」でした。