2017年・小説系同人誌感想まとめ

2017年にTwitterでわめきちらした、知性と理性のない小説系同人誌の感想をまとめました。
ぷらいべったーとかに投げたクソ長文感想は単独記事化しようと思います。

『デイズエンド・トワイライト』

梶つかささん特設サイト
読む前に八束さんから「めちゃ重だったから覚悟して読んだほうがいい」ってなぜかLINEで言われたけどたしかにめちゃ重でした。
一見軽やかな友人やママとの会話にこそひりつくような重さがひそんでいて、「これは…死ぬ…(萌え的な意味ではなくつらみで)」と思いました。

一方で、「彼女」との会話は非常にとげとげしいし互いに傷つけ合ってる感じなんだけど、読み手である私にとっては意外と苦しさはなくて、「あ~わかりあえないんだな…」という納得をもってふたりを眺めているような感覚が印象的。
ふたりがわかりあえないってことがわかってるからこそ、読んでいて息が楽だったなのかな。
理解しよう、寄り添おうとすると、関係性って余計に苦しいものだし…。
「くっつこう/くっつけない」という意識が他者じゃなくて国に向けられているときこそ、苦しさが際立っている感じがしました。
国は他者よりもぜんぜん大きいから、少女がそれを意識したときの「どうにかしたい/どうにもならない」という八方塞がり感が余計つらいのかな。

小道具の扱いも印象的でした。
紙コップに入った熱いお茶、真夜中のサービスエリア、やけに澄んだ冷気、夜が白んでしまうことに対するある種のもったいなさ…。
そんな錯覚が押し寄せてきて、まさに「デイズエンド・トワイライトだなぁ」とため息をつくしかなかったです。

『病める白百合』

跳世ひつじさんカクヨム版
カクヨムの垢バンに挑んだ問題作!
具体的に言うと青年が少年とセッ  してるんだけど、それが一番エロい部分かというとそうでもない。
個人的に特にエロく感じたのは食べてなくて飢えてる描写と食べても飢えてる描写、そして飢えが極まって食べる描写かな。
でもエロいから興奮するかというと、そういうわけでもなく…。
なんというか、離れた場所から飢えた人をみてエロいなー、と冷静に思ってる感じ。大食らいの連れを(よくこんなに食えるな…)とじっと見てしまうような。夢のなかの奇妙なものごとを、変に冷静な目で見てるときに似てる。

描写も夢と現が入り混じっている。
美しいものも醜いものも、綺麗なものも汚いものも、一切選別されずに匣のなかにざらーっとと流しこまれてゆく感じ。
それがホーンという猥雑で不可思議な世界観にすごく合っているというか、清濁無差別だからこそホーンが独特の世界となっているというか…。
そう、匣のなかの世界なんだよね。
暗くて狭い劇場で、美しい人間が日常のような悪夢のような幻想のような劇を繰り広げている。
役者の肉体が放つ熱や舞台道具に染みついたにおいが生々しく伝わってくるんだけど、読者である私は舞台に引っ張り上げられることなく、ひたすら静観している。そんな世界がそこにある。

『&Blue』

落山羊さん
作者的にどうせ(?)セックスと暴力のるつぼだろうと思ってたけど、実際は完膚なきまでに青春小説でした。性と暴力がスポイルされると、こんなに透明感と繊細さに満ちた世界になるとは…。
変なたとえで恐縮だけど、前髪で目もとを隠しているあの子の素顔はとても端正だった、瞳は怖いほど澄んでいた…みたいな感じ。
姉弟の関係が読んでいて心にどうがんばっても割り切れないもだもだを与えてくれるだけど、ラストでこのもだもだの原因になっていた凸凹がかっちりはまって、もだもだがすーっと晴れてゆくのが心地いい。
みんな透明で、その透明さのニュアンス(透明度というかほんのわずかに帯びている色味というか)が違っていて、その微細な差異がつかめそうでつかめなくてやっぱりつかめないけどちょっとつかめる気のするもやもや感につながっている…んじゃないかなぁ。

『白樺の牢獄』

えこさんWEB版
めっちゃ怖かったというかヒヤヒヤしたというか緊張感がやばかった…。
ストーカーされたことがきっかけで発展する恋愛の物語、といえばそうなんだけど、サイコサスペンスとかホラーとかそっち方面の色も濃くてとても贅沢だった。
多英さんと和成さんが恋を育んでる過程でささやかなよろこびも感情の揺れもすべて拾い上げてる姿はすごく愛しいんだけど、常に不穏な空気が漂っているというか、かわいらしい恋愛を見せられても「和成さんでほんとに大丈夫なの…?」感が抜けなかった。
この張り詰めた感じが最後まで続くのがやばい。すごいというよりやばい。
もちろんときどきふっと緊張の緩むシーンがあるんだけど、でもここで安心しちゃダメなんだろうなという感覚は離れなくて、安心するために最後まで一気に読むしかなかったです…。
結局、ラストはよりいっそうやばかったけど。搦めとるというよりは侵食するって感じ。
緩急のつけ方がとにかくやばかった。

あと、和成さんの行動で決定的に「おや?」と思うものがあったんだけど、多英さんが最後まで気づかなかったのがほんとやばかった…いい意味でうわってなった。
読者は当事者じゃないからこそ違和感に気づける、だから常に緊張せざるを得ない…という構造もすごくよかった〜。

『ヨコシマ・ラブ・ホリック』

えこさん
女の子のかわいさが天元突破してる…そりゃみんなましろちゃんのこと気にかけてじりじりしちゃうよな…って感じ。
かわいいが優しい世界を作り回すんだ…という説得力に満ち満ちていました。甘すぎないのも読みやすい〜。

章ごとに語り手が変わる…というかましろちゃんを巡る短編連作なんだけど、その構成のおかげでましろちゃんのかわいさが余すところなく描かれてるんだな〜。
望くんの語りで「わかる〜」ってヘッドバンキングした。
ましろちゃんとマネージャーを端から見たら、そりゃすけこましもお節介おばさんになるわ…。

加齢により着々と甘味が苦手になってる若手ババアでもおいしく食べられる砂糖のさじ加減もほんとよかった〜。
心臓に悪い展開がないのにちゃんとおもしろいのもポイント高い。
ましろちゃんが擦れないためには芸能界引退が一番なんだろうけど、それでも私はアイドルかわいいましろちゃんを愛でたいんだよ!

『プライベート・アドニス』

まゆみさん
ありとあらゆるものがすけべのために構築された世界、というか作品だった…。
アドニスの設定はもちろん(穴から蜜が出る)、リオもご主人様も文章も装丁もなにもかもがすけべのために存在してる感じ…圧倒的すけべの洪水…。
めくるめくすけべはもちろんえろいんだけど、それ以上に感動してしまった…こんなにも純度が高いすけべがこの世界に存在することに…。
表現のすべてがすけべのために存在していて、小さなすけべが大きなすけべを作り出してる様はまさにまゆみガーデンって感じ。
すけべを通して生命の鮮やかさ、そして豊かさがこれでもか!というくらい描かれてる。
性のなまぐささはないけど、むせかえるような生のにおいがする。
匂いも臭いもひっくるめた「におい」なんだけど、心地よさしか感じないんだよ〜。
あと前にやったえぐい触手系男性向けエロゲーと同じような行為をしているのに、ハッピーに満ち満ちているからほんとすごい。

『欲深くうつくしい生き物』

まゆみさん
どこか非現実的な日常と、生活感ただよう非現実の描写が同時に摂取できる特別仕様〜!
このふたつが違和感なくつながってひとつの物語になってて興奮したし、おまけに対比構造は感想映え(?)もするから最強…。
日常描写もすけべ描写も生の痛みや不浄をまったく排除してないのに、本を開くと美しくて心地いい世界が広がっていて、頭まで浸かって目をばっちり開いてことの顛末を見守っていても、目が痛くなったり息苦しくなったりしない…。読んでるほうと世界との間に境界が存在しないのに、まったく不愉快ではないどころか快適…。

清らかでありながらすけべな話だから、なんだか「読むすけべの暴力」って感じ。
いやぜんぜん暴力的ではないんだけど、すけべが圧倒的すぎてもはや暴力。
お風呂で洗ってあげるのはまだしも、いっしょに湯船に入るのは暴力。
錯乱しているような感想だけど、読めばわかる。

『橋向こう、因縁の街』

まゆみさん
淫乱だからこそ潔癖な18歳、色情霊、どことなく漂う昭和の香り…って最高じゃないですか???
むしろ「伝説のポルノスター」の時点ですでにやばい。
生者と幽霊の入り混じったいい意味でのごちゃごちゃ感もたまらなかったです。私は猥雑な街の風景が好きなんだ。

まゆみ先生といえばすけべ(性的な意味で)なんですけど、序盤の幽体離脱中/直後のすけべの時点で「まじか…なるほど…!?」となったし、そこから何度も繰り返されるすけべ描写は言うのも憚れるほどウルトラピンクなものだから、またもや読後感が「すけべすぎてやばかった…」一色になってしまったのは致し方ないことであろう。

でも、すけべだけではなくストーリーもめちゃくちゃ熱かったんですよ!
少年が大人になるための通過儀礼(としてのすけべ)、少年を導く大人の男もその過程で自分の過去の後始末をして先に進めるようになる…大人と大人一歩手前の境目の年頃好きとしては「熱い」としか言いようがなかった…。
そして猛烈な勢いで五感に訴える文章なせいで、むしょうにクリームソーダが飲みたくなる作品でした。

『竜の腹』

八束さん
実は下読みさせてもらったんだけど、そのときとは印象が違って二度楽しめました。
ホホが運命を信頼して、一時的な別れに振り回されずにひたすら南を目指す姿は、なんかこう、人間の本質的な幸せに直結してるようで泣ける…(泣いてはいない)。
世界の根底に存在する大きな流れ、どんなに偉大な人間でも制御することのできない存在に身を委ねるホホは、どんなに汚れて痩せてみすぼらしくても、「本能的は裏切らない」的な強さにあふれてて、それでいて人間的な知性も感じられて、ホホという個を通して世界の脈動に触れてる感覚がすごい。
生きているからこその物理的な汚さ(不衛生さともいう)まできちんと描かれていて、動物らしい生臭さに満ちあふれてるんだけど、だからこそ内的な幸せの清冽さが際立ってるんじゃないかな。
生命と運命がリンクして、土地や時代さえも超越した巨大な螺旋を描いてる感じがたまらなかったです。

『ハレバッグノスの時計職人』

梶つかささん真空中さん特設サイト
時計って歯車が組み合わさって動いてるじゃないですか、その様が脳裏に浮かぶような読了感でした。
ひとが他者と関わりあうことでものごとは未来に進んで行くんだな〜と実感できる二編の小説が、なんと一冊に詰まっているんですよ…。

梶さんによる表題作は登場人物がひとり欠けただけで成り立たなくなる物語で、ひとびとが相互に作用してる様がたまらない。
読み進める内に徐々に謎が浮かび上がってきて、主人公の変化とともにそれが解けていく過程は興奮したし、雨雲が去って光が射すようなすっきり感にもあふれていました。
過程が重いからこそ、読了後の軽やかさがたまらなかったです。

真空中さんの『遺物語りの時計職人』は、なんというか…故郷が焼かれている…。
報われなくても遺物を守り時を進める先代の孤独感が、軽やかなのに重たい感情描写で詰め込まれてて、だからこそ孤独じゃないという実感がこみ上げた…瞬間にボディブローを食らいました。
ひとりの男に焦点を当ててるけど、より俯瞰な印象があったな〜。

『ジランドールの灯り守 1~3巻』

市井一佳さん特設サイト
表紙の素晴らしさに手を取ったら、中身も死ぬほど素晴らしかった作品(※実際は作者買いです)。
なんというかすごく大事にしたい作品だから、私の語彙力では納得のいく感想が書けなくてひたすら「いい…」と繰り返すしかない…。

子守のために開発されて、実際に親を失った子どもに寄り添ってきた自立人形たちの物語なんですが、彼らの稼動可能時間が10年という点があまりにもあんまりで実に最高…。
自立人形たちの限りある時間をどうやりくりするか…という切り口においても、自立人形のオーナー側の個性が浮き彫りになっていてたまらない。こんなん泣くでしょ。
自立人形は死にたくないという本能も持ってるし、ある程度以上成長した人間と変わりない情緒もあるんだけど、だからこそ10年というかぎりある時間が重たくのしかかってくるというか…互いに親愛の情を持ってても添い遂げることができないわけで…だからこそ想いに深みが出てきてまじ無理…。

すっごく愛にあふれてる話ではあるんだけど、感情面も事象面も理由がちゃんと提示されていて、ささやかな出来事が連鎖してるから、情緒性の暴力をふるう感じではなく、やさしくていねいに紐解いている、って印象。
だからこそ、それぞれの物語のきれいさに納得できるし、素直に受け取れるんですね。
アリエナとキセニアという「例外」の存在が提示されてたり、1巻の内容が3巻の展開を支えていたりと、いくつもの歯車が噛み合ってるんだけど、それによって動いていく物語は決して無機質じゃなくて、むしろやわらかくてぬくもりに満ちている…。
続きが楽しみです。