『蝶の記録』(&『テネブレ』)感想

2017/3/20にPrivetterへ投げた同人誌感想です。
これを編集して『テネブレ(カクヨム版)』のレビューを投下したりもしました。

■ タイトル:
『蝶の記録(※R18)』
『テネブレ』
■ 作者:八束さん
■ ジャンル:異世界ファンタジー/BL

帰省中に高速バスのなかで読んだ。エロ本だった。
実は読むのは2度目だったんだけど、今回のほうが圧倒的なつらみを感じました…。
『テネブレ』という好きとか嫌いとか萌えとか燃えとかそんなありふれた感情を軽く超越したなにかを呼び起こすやばい小説があるんですけど、『蝶の記録』はその前日譚で、つまり…本編よりは軽やかな話だ!と思うじゃないですか…?
でも、実際のところは尋常じゃないくらい重いんですよ。読んだあとも物語を構成するあれやこれが胃に残る感じ。つらい。
なのに満足感もあるからほんとやばいんですよ…。「やばい」という得体の知れない形容詞がめちゃくちゃしっくりくる。
あと、濡れ場も(物理的に)つらい。この話単体でもつらいんですけど、テネブレと併せて読むとますますつらくなるので、セットで読むのがおすすめです。読もう。つらさに耐えられなくなりそうだったら、とりあえずテネブレのラストまで読もう。

ところで、私のなかでテネブレも蝶の記録も「神話」にカテゴライズされているんですけど、それは個々の事情で人間の枠からはずれてしまった、(民俗学的にそういう根拠があるのかしらないけど少なくとも私の定義では)「神」にあたるひとびと…つまり神々の物語だからなんです。ひとに生まれひとのなかで生きているからこそ苦悩する神、みたいな。
思うに、「標準的な(あるいは理想的な)人間としての型」みたいなものがあって(たぶんそんなものはない)(あったとしても土地や時代によって変わるのでは)、その型からはずれていればいるほどふつうのひとからかけ離れていって、同時に神に近づいていくんじゃないかなーと蝶の記録を読みながら思いました。
ヘルマンは男性器が欠けていて、ダミアンはちんこがでかい。いや精神的なちんこなんですけど、性欲や支配欲などが強すぎて精神的な人間としての型から外れているのもまた、苦悩の素なんじゃないかなー、と…。比較的人間に近そうなエッカルトもまた、不具であるがために神に片足をつっこんでいる。
不足していても過剰になっていても苦しくて、そんないびつさがテネブレや蝶の記録の「つらさ」を形作っているんだと思っています。
そして他者と決して噛み合うことができなくて(それゆえに孤独でますます他者を求めてしまう)男たちがなんとか己の不足を/過剰をなんとかしようと関わり合って、でもぜったいに噛み合うことがないから身を重ねるだけで痛いし余計に苦しくなってしまう…みたいな…。
そんなつらさが「もはやこれは文章じゃないでしょ?映像でしょ?」みたいな文章で描かれているからこそ、「やばい」という感想が出てくるのではないでしょうか。

ヘルマンはテネブレだけ読むと「ビジンノオニイサン」で「暴力のはけくち」で「疫病神」という印象なのですが(いずれも間違ってないと思う)、蝶の記録を読むと彼にはたいへん申し訳ない上に上から目線になってしまい恐縮なのですが「かわいそうな子」という印象がはなれなくて、頭を抱えてしまいました。「かわいそうな子」とヘルマンを突きはなして眺めないと、読んでいるこっちにまで彼の抱えている虚ろが押し寄せてきそうだからかもしれませんが…。
そしてテネブレを読んだときヘルマンは私のなかで♀という認識だったんですけど、蝶の記録を読んでそれが強化された感じがあります。ヘルマンは男にも女にもなれなくて、それでも幼いエッカルトに対してママになることで家族という強固なつながりを得ようとしているんだなぁ、と…。おにいちゃんでもおねえちゃんでもなくて「ママ」を選んじゃうんだー、みたいな。

私はこう見えてなかなか迷信深いので、「ダミアンが神さまの伴侶を勝手に拾って自分のものにするからとんでもことになったんだ!つまりテネブレはたたりじゃ!」と最初から最後までずっと思っていました。
でも、少し冷静になると、ダミアンの魅力の奥にひそむ(たぶん本人にもどうすることもできない)強すぎるちんこのはけ口を作らなかったら、また別のところでゆがみが生じて、やっぱりとんでもないことになっていたのかもしれない…という可能性があることに気づいてしまいました。
このままならさもまた、テネブレの世界(だけじゃないかも)のつらみなんだろうなぁ。ヘルマンに対しては「ああすればよかったんだ」「こうすればよかったのに」みたいな感想が出てこないし。だからこそヘルマンを「かわいそうな子」と突きはなさざるを得なかったのかもしれません。テネブレのひとびとはだまって眺めているしかできない存在なんですけれど、ヘルマンはダントツでその傾向が強いです。「エッカルト~~~死なないで~~~~(;;)」となってもヘルマンに対してはどんな展開であれ「そっか…」「かわいそう…」以外の言葉が出てこないですし。これは決して思い入れの程度に違いがあるわけではなくて、ほんとうにかける言葉がないのがヘルマンなんです。信じてください。

いろいろ書きすぎて自分でもなにがなんだかわからなくなってきましたが、テネブレ(+蝶の記録)はやばい。以上だ。