『Epitaph』感想

蟹…じゃなくて梶つかささん主宰の墓参りアンソロジー。
特設サイトはこちら

■ タイトル:Epitaph
■ 形態:アンソロジー(13人の執筆者による短編小説集)
■ ジャンル:墓参り

1作読み終わったら少し休憩を入れないと次の作品に手を付けられないほど濃厚な短編の詰め合わせでした…。
冷蔵庫で冷やして食べたら美味しいタイプの焼き菓子って感じ。

01. ふたり、旅路にて

圧倒的エアリー感!(ふわっと風が通るような、という意味)
あたたかなやさしさと芯の通ったシャキッと感が合わさった、なんとも読後感のいいお話。
あちこちに添えられたアクションシーンに躍動感があって、それが刺激になって読んでいて気持ちがいい…ラストもよかったです…。

02. 祈りしずめる森の神子

徹底して幻想的な世界観に浸りながらミステリー要素を追いかけていく贅沢…。
赤黒くよどんだものを交えつつも、最後はしっとり&しっくりとして、読み終えたときの満足感がしあわせでした。
タイトルもああ…なるほど…(※ネタバレ自重)な感じでとてもおいしかったです。

03. 帰る場所は

ディティールから物語があふれてくる…。
低体温な印象の文章なんだけど、力強い描写がいくつも重ねられて、織り込まれていくうちに、単純な言葉では説明できないような分厚い愛情がこちらに迫ってくる感じ。
生まれ変わりをごく自然なものとしてとらえてる感じもグッとくるなぁ…。

04.廻る鈴

トクちゃんです。
あと、オームの絶妙にかわいくない鳴き声がかわいい。
ゆるい部分と、シリアスな部分と、胸にしみいるような部分と、さらっと流す部分の緩急がとてもよかった。
ご高齢の方が熱いし、少年も熱いし、鳥も熱い。だからこそ、死者の冷たさや鈴の音の涼やかさが際立つわけで…。

05. 卵果に生る

腐葉土のにおいと死の腐臭と生のなまぐささがたまらない。
棺桶を引きずるひとびと、肉の塊、噛み合わない感情を眺めるさめた目線…ってどこを切り取っても好み。
読んでいるときの感覚が、卵の孵化に失敗しまくって、でもついには孵る瞬間を目にしたときの気持ちに似ている。(なおそんな経験はしたことがない)

06. エバーグリーン

的確に感情の線?をなぞってくる雰囲気。
琴線に触れる、というほど乱暴(といっていいのか)じゃないところが独特だし、じわっと感があって「あー墓参りだー…」という印象。
ごく自然だから読んでいるあいだは気づかなかったけど、フロラ視点とアキ視点の書き分けも鮮やかだなぁ。

07. イヴリシア

ともすれば血錆に残ったわずかな水分くらいしかうるおい(といっていいのか)の感じられない話になりそうなのに、地中に向かってぐぐっと引き下ろされた感情の管から異様に豊富な黒い水がだくだくと流れこんでくるところが、“イヴリシア”の梔子めいた雰囲気との対比も相まって強烈。

08. ステュクスを渡る

読んでいて葬式のときの感覚が生々しくよみがえってきたんだけど、やっぱり出棺と川の組み合わせは本能的ななにかに訴えかけてくる…。
自分が実際に生きてる世界とは時間も場所もまったく異なるのに、かぎりなく身近で逃れようのないものに触れている気持ちになるのが不思議。

09. 蒼き火花のアビゲイル

心にストンとはまる読了感。
暗さ・黒さと爽快感のバランスが絶妙だなー。特に蒼き火花のエピソードが出てくるタイミングが気持ちいい。
アビゲイル本人がなにを考えなにを思っていたのかは直截的な言葉では語られないけど、だからこそその行動のひとつひとつに釘付けになってしまう…。

10. リンゴの親離れ

先が読めたぞ…これは感動系ほっこりストーリーだ…!
と浅はかな推測をして全力で火傷しました。
真実が隠されていることには、相応の理由があるってわけだ…。
ラストでの主人公の傷つき方や泣くまいとしてる姿がなんだかんだいって年相応で、だからこそ物語の苦さが身に迫る。

11. とむらいびと

物語に散らされた死とか生とかの気配のなかに、読み手である私が日常でふと感じるものがいくつもあって、それらが容赦なく突き刺さってくる…。
特定の人物の墓参りに来たわけでもないひとが墓地で「いつ死ぬかなんて分からない」って話すのは、ほんと破壊力があるなぁ…。

12.心の在り処

鏡架の「死んでいた」ときの姿が生き生きとしてないのに生々しくて、だからラストの「生きていきます」と宣言したときとの対比がすごくあざやか。
おかげで前向きに話が終わるのはやっぱりよいものだ…という感慨がより深まった印象。
切なさとさわやかさのバランスもいいなぁ。

13.スキヤキコンプレックス

肉を食べる、という行為が想いだけではなく、生命が循環している感があって正直たまらない…。お肉っていのちの味がするじゃないですか。
達海が遺した肉を清心が食べて、清心が晴雪に肉を食べさせる…って螺旋構造がうつくしい。
想いが同じところにかえってゆきつつも先に進んでいるんだ…。